コラム5


第5回コラム「がん検診は受けたほうがいい?」(2011.05.14)

現在、日本におけるがん対策では、がん検診の受診率を50%にまで高めることで罹患率を減らし、かつ死亡率も20%減少させることを目指しています。ですが、今のところ各市町村で毎年行われているがん検診の受診率は20%以下で、これは同様の健診システムを持つ英国や北欧が、約70~80%の受診率を達成していることと比べると大変低いものです。八王子市についてみると、過去5年間で受診者数は1.7倍に増え、全体としては伸びているものの、一番受診率の多い子宮がん検診でも18.9%という低さです。

 八王子市民を対象にしたがん検診の意識調査で、最も要望の多かったのは、「土、日、祝日にがん検診が受けられること」と「医学的根拠のある、効果のあるがん検診が行われること」でした。多くの方々にその有効性を知っていただき、また継続して受診しやすくしていくことは、医療機関の務めと考えられます。ただ、残念ながら、土、日診療を行っている当院では、通常の診療を希望して来院される患者様が週末は特に増えるため、検診の方々を同時に受け入れることは難しく、要望は重々承知しているものの、現在、検診は平日にご予約で行うことでご理解いただいております。

 年々、がん検診の精度が向上していくに従い、がん発見率は高くなり、見落としリスクも低くなっているという成果が出ています。八王子市で実施されるがん検診は明確な科学的根拠が認められ、現在、無症状の健常者を含め、40歳以上の方々すべてに推奨されているものです。(子宮頸がん検診については20歳から)ただし、がん検診に限らず、検査の精度に100%を求めることは難しいものです。そのため、適切な間隔で検査を受け続けることで、初回に診断できなかったがんを発見する可能性を高める必要があります。単発ではなく、継続的な受診を勧めるのはそのためです。また、検診方法についても、大変とか面倒といった身体的、精神的負担の軽減に配慮しつつ、効果の確かなものになっています。胃がん検診以外は、食事制限も内服薬制限もありません。大腸がん検診は、検査キットに便をとり提出していただくだけですが、大腸の中のがんやポリープからの出血の有無を調べることにより、毎年受診すれば大腸がんの死亡リスクは60~80%も低くなります。肺がん検診も胸部のレントゲン撮影だけで済みますが、(喫煙者の方は喀痰検査が必要になります)そのエックス線写真の読影には医師数名でのダブルチェックが行われ、近年に撮影した写真との比較読影とあわせて精度の優れたものとなっています。

加齢とともにがんの罹患率、死亡率は増加していきます。しかし、乳がんの罹患率のピークは40歳代、子宮頸がんの罹患率は20歳代から増加し、ピークは30~40歳代です。この30年間の調査でも女性の乳がんは特に急増しており、若年層の検診の有効性を裏付けるものです。

 当院では肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がん検診の4種類を実施しており、地域のかかりつけ医として、日々の診療と並行して予防医療も重視した取り組みを行っています。検診後さらに精密検査が必要とされる場合も、専門医への紹介など、受診者の方と一緒に意思決定をしていく方針です。かかりつけ医があり、定期的に受診できる環境にいることが、がん検診受診を促進するという調査結果も出ています。我々医療従事者は皆様に分かりやすく情報を提供し、検診を受けるかどうかの意思決定をサポートしながら、受診の阻害要因をできる限り取り除いていくように努めてまいります。

出典 「かかりつけ医のためのがん検診ハンドブック」「がん検診の実施について(八王子市地域医療推進課)